先週の日曜日に、桜木町にある横浜市歯科医師会館にて、宮地建夫先生をお招きして、『長い患者さんとの付き合いから見えてきた事~歯医者は現場で何を考えているのか~』という演題で、クローズドの講演会(座談会)を開催いたしました。 宮地先生は、わが母校である東京歯科大学の大先輩でございまして、歯科医師であれば必ず知っている「宮地の咬合三角」という理論を打ち出された著名な先生です。 ご自身が提唱された方式に名前がついて、それが世界中で通用しているって、凄いことですよね。 「宮地の咬合三角」といいますのは、簡単に申しますと、失われた歯を補う治療をするときに、その難易度を読み取る方式です。 理論は、上下で咬み合う箇所数と、現在お口の中に残っている歯の数を、それぞれ縦軸と横軸に振り分けして、座標位置でその症例の難易度を判定するものです。 単純ですが、視覚的に健康状態から総入れ歯までの難易度を三角域で現わすことができる優れた分類方法です。 失われた歯を補う治療、すなわち「補綴(ほてつ)治療」というのは、もちろんお口の中に健全な歯が多ければ多いほど治しやすいのですが、肝心なのはただそれだけではないということなのです。 過去に岐阜大学医学部で、歯の数と患者さんの主観的な満足度についてのアンケート調査が実施されたのですが、その結果が非常に興味深いものになっています。 通常、歯が多い人ほど満足度は高いでしょうし、一方で歯が少ない人は食事も満足にできなくなるので、なにかと困ることが多いだろうと、この程度のことは予測がつきますよね? しかし結果は、意外なものとなったそうです。 つまり、歯が多い人の満足度が高いことは予想どおりでしたが、たとえ歯が少なくてもお口の中の満足度は決して低くない半面、ちょうど歯の数が半数(9~16歯)くらいの人たちの満足度が最も低く、U字型のグラフになったそうです。 これはつまり、残っている歯の本数だけからは分からないものがあるということです。 本当に大事なのは、歯の本数よりも、かみ合わせの崩壊(咬合崩壊)の重症度であるのです。 ですから、たとえ歯の本数がまだ半分くらい残っていたとしても、上下で咬み合う箇所が少ない場合には、治療は非常に困難を極めますし、岐阜大学のアンケート結果からもわかるとおり、患者さんの満足度も低くなるというわけです。 実はこのことが、宮地先生の咬合三角の理論と見事に一致するのです。 咬合三角の中で最も難しい症例なのが、歯が半分くらい残っているものの、上下の咬み合う箇所が極端に少ない、いわゆる「第3エリア」の症例です。 私たち歯科医師は、ここのエリアに突入する前に、何らかの手を打ち、かみ合わせが崩壊するのを防がなければいけません。 この日は、午後の講演会の前から、まずはお昼は馬車道の「勝烈庵」にて宮地先生を囲んでの食事会を開き、夕方までみっちり4時間、宮地先生の講演を聴きながら、臨床の現場の最前線にいる私たちとたっぷりディスカッションさせていただきました。 私自身、咬合三角について誤解して認識していたところも新たに発見できましたし、今後の日常臨床にも大きくプラスになりそうなヒントをたくさんいただきました。 そして夜は懇親会として、「横浜ビール 驛(うまや)の食卓」にて、地ビールとともに遅くまで宮地先生を囲んで楽しいひとときを過ごさせていただきました。 今後も、横浜歯科臨床座談会の活動の一環として、ときどきこのようなビックネームの先生方をお招きして、大いに意見交換を繰り広げていきたいと考えております。 |